安田祥(やすだ・さち/1987~・大阪)は、2012年に京都造形芸術大学大学院・修士課程を修了し、現在も京都で作陶をおこなう、若手作家であり、これまで個々の「陶」による造形物を集積させ、それらを陶として、また空間や建築の一部として提示するかのような作品を発表しています。
「陶」は多くの建築において「タイル」「陶版」「レリーフ」といった名称・形態によって用いられています。それらは集合体となれば幾何学的な規則性を持つタイルとして、また有機的な意匠を表現するレリーフとして、建築の表面あるいは一部を構成し、都市のあらゆる場所で見受けられる身近なものであるといえます。そして、それらは個々においては具象や抽象といった表現ではなく、ただの機能的・装飾的な資材として認識されています。
安田は「陶でタイルを表現する」といいます。
それは「陶」である。
それは時にタイルと呼ばれるものであるが、タイルという機能や素材として存在するのではない。
あるいはそれはオブジェではない。
それが陶である以上、歪みやムラといったある程度の差異をともなう個性として存在する。同時にそれがタイルである以上、ある程度の規則性を持った集合体として存在する。
それらはタイルとして壁や床あるいは柱といった建築を支持体とし、そこに壁や柱を成し、空間を成す。
では、それは陶でタイルを、陶の集合体として壁を、床を、柱を、建築を「表現」する事になり得るのではないでしょうか。
本展は五種・千もの陶のピースを会場に「設置」するもので、ギャラリー空間に続く階段部分をはじめ、柱部分、畳み部分、床部分に大別できるそれぞれは、いずれも所謂「押し型」によって安田が半年以上かけて制作したものです。(階段上部分設置作品《expansion》のみ2012年制作)
それらはタイルらしくないタイル(状)の様相として、ギャラリー空間の壁や床を成し、そこに陶・タイル・建築・インスタレーションといった固有名詞を持ち難いものとして展開しています。しかし、ひとつひとつのピースに注視すると、それぞれは焼成による歪みやムラを持った「陶」であるとともに、その集合体として「タイル」、柱や壁を構成する点で「建築」、あるいは空間全体を作品とする「インスタレーション」と呼べるものでもあります。
ここで安田は機能・素材としてのタイル(陶)という在り方から、その存在を規定する「用」を抑え込み、それらを「表現でもある」ものへと定義しなおすことで、その狭間の様相をただ提示しているといえます。