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Exhibition info

high & dry
田中 和人

Tanaka Kazuhito

2014.11.14. 〜 11.30.

Exhibition View

9 images

Statement

この展覧会では、最新作「high & dry」シリーズが、これまで制作されてきたいくつもの作品シリーズ(未発表作品や習作を含む)と混在した形で展示される。これまでの自身の作品を、再構成し、相関の中から、新作への意志を表出させる試みだ。
僕は「抽象」というものに強く魅かれている。とりわけ、新造形主義、抽象表現主義、ミニマリズム。「絵画」のダイナミックな抽象の歴史。「絵画」への限りない憧憬が僕にはある。しかし、新しい「抽象」とはなんなのだろう。
新作「high & dry」は、自ら「wet inkjet painting」と名付けた技法(写真をインクジェットプリンターで乾かない状態で出力し、その表面を手や筆を使ってフィジカルに抽象化する方法)をもとに「絵画」的な「写真」、あるいは「写真」的な「絵画」(もしくは、その両方)を制作、さらにそれを様々な光の環境下で再撮影した作品だ。
ここでは、「絵画」と「写真」が等価に、そして、お互いがお互いを照射するものとして存在する。その関係軸は時に「補完しあう関係」であり、時に「欠落させあう関係」であり、それらは、相反するものとしてではなく、揺らぎながら重なり合うものとして提示される。「絵画」と「写真」の差異ではなく、同一性として。僕はその「同一性の揺らぎ」の中に新しい「抽象」を見いだそう。
この「high & dry」を含め10シリーズを超える作品が、ひとつのギャラリー空間に構成される。ここで、もうひとつの問いが立ち上がる。「作品」とは、あるいは「新作」とはなんなのだろう。
すべてのシリーズは、互いに影響しあい、シリーズ別でも、年代順でもない、新しい繋がりを示すことだろう。新作が、この相関の中で、過去と現在を自由に行き来するのもいいのではないだろうか?
その状況へ開かれていること。部分としての作品と、全体としての作品が、固定されず、空間を創出すること。予想出来ないアクシデントの予感の中で。
「絵画」と「写真」、あるいは「新作」と「過去作」が対峙するものとしてではなく、その区分けが透明化された状態から浮かびあがってくるもの。
僕が今、求めて止まない現時点の「抽象」がここにある。

田中 和人

About

 田中和人(1973年・埼玉県生まれ)は、2004年にSchool of Visual Arts(N.Y.)を卒業後、京都に拠点を移し、写真作品を中心に制作・発表を続けています。2007年に『mio写真奨励賞』入選、2011年には『TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2011』を受賞するなど、写真領域での活動と評価に加え、近年では展覧会企画などにも積極的に取り組むなど、横断的な制作・展開による活動を続けています。
 田中はおもに「具象と抽象」あるいは「写真と絵画」の「境界」をテーマとしており、これまでの作品からはその一貫した興味を明確に見ることができます。
 色鮮やかな玩具のブロックをボカシて撮影した《blocks》(2008~)のシリーズは、そこに平面的な色面構成の妙とともに、都市空間のようなイメージをも描き出し、金箔をフィルタとして風景を撮影し、そこに青白い光に満ちた世界を描き出した《GOLD SEES BLUE》(2009~)は、写真をドキュメンタリーから解放するとともに、イメージを具象と抽象の狭間にとどめ、そこに現実と紐づいた絵画的・抽象的な世界の姿を表出させています。   《Untitled Composition》(2011~)ではそれまでのフォーカスやフィルタといったアナログ的なアプローチに加え、デジタルによるモザイクや拡大といったアプローチにより対象の分解・再構成を試み、《after still》(2012~)においてはカメラの代わりにスキャナーを用いて、光と色をまるで絵画を描くかのように扱っています。
 またここに内在している「抽象化・デジタル・分解と再構築・絵画と写真の領域」といった諸要素は、既存の絵画作品の画像をインクジェットによって特殊紙にプリントし、そのインクが乾かないうちに絵筆で直接画面に介入し、そこに絵画と写真、具象と抽象の狭間に起こるモーメントを写真として定着させた《Ghost of Modern Art》(2012~)から、新作となる《high & dry》へと展開しており、田中にとってこれまでの作品に見られる個々の興味と探求は、都度の気付きを次の新たな着眼点としながら、同時期や以後の作品に引き続き指向され、補完的・発展的に展開しているものといえます。
 関西では久しぶりの個展となる本展は、その新作《high & dry》を中心に、これまでの13~15にわたるシリーズから100点以上の作品によって構成するものです。ミクロ的には新作《high & dry》において新たに・再び試行されている「具象と抽象」「写真と絵画」をめぐる探求の差異と進化について。マクロ的には一貫したテーマへの取り組みであるこれまでの作品群において、それらを「同一性の中の揺らぎ」として俯瞰し、その共振により現われた波紋をこそ、田中和人の現時点での「抽象」として示すものです。田中のテーマへの探求とその可能性を見る本展では、「絵画」と「写真」あるいは「新作」と「過去作」といった「相対」の構造は消失し、すべてはより複雑に、よりシンプルな「総体」となって空間に展開されることとなります。