この展覧会では、最新作「high & dry」シリーズが、これまで制作されてきたいくつもの作品シリーズ(未発表作品や習作を含む)と混在した形で展示される。これまでの自身の作品を、再構成し、相関の中から、新作への意志を表出させる試みだ。
僕は「抽象」というものに強く魅かれている。とりわけ、新造形主義、抽象表現主義、ミニマリズム。「絵画」のダイナミックな抽象の歴史。「絵画」への限りない憧憬が僕にはある。しかし、新しい「抽象」とはなんなのだろう。
新作「high & dry」は、自ら「wet inkjet painting」と名付けた技法(写真をインクジェットプリンターで乾かない状態で出力し、その表面を手や筆を使ってフィジカルに抽象化する方法)をもとに「絵画」的な「写真」、あるいは「写真」的な「絵画」(もしくは、その両方)を制作、さらにそれを様々な光の環境下で再撮影した作品だ。
ここでは、「絵画」と「写真」が等価に、そして、お互いがお互いを照射するものとして存在する。その関係軸は時に「補完しあう関係」であり、時に「欠落させあう関係」であり、それらは、相反するものとしてではなく、揺らぎながら重なり合うものとして提示される。「絵画」と「写真」の差異ではなく、同一性として。僕はその「同一性の揺らぎ」の中に新しい「抽象」を見いだそう。
この「high & dry」を含め10シリーズを超える作品が、ひとつのギャラリー空間に構成される。ここで、もうひとつの問いが立ち上がる。「作品」とは、あるいは「新作」とはなんなのだろう。
すべてのシリーズは、互いに影響しあい、シリーズ別でも、年代順でもない、新しい繋がりを示すことだろう。新作が、この相関の中で、過去と現在を自由に行き来するのもいいのではないだろうか?
その状況へ開かれていること。部分としての作品と、全体としての作品が、固定されず、空間を創出すること。予想出来ないアクシデントの予感の中で。
「絵画」と「写真」、あるいは「新作」と「過去作」が対峙するものとしてではなく、その区分けが透明化された状態から浮かびあがってくるもの。
僕が今、求めて止まない現時点の「抽象」がここにある。
田中 和人