京都の街角を歩いた際、不意に地蔵菩薩や大日如来などを祀ったホコラを目にすることがあります。それらの多くはコンクリートや石積みの基礎の上に木造の社を持つものですが、そのしつらえにタイルづくりを取り入れたものもしばしば見受けられます。今も街角に残るホコラには、それらが今日まで長く地域に受け継がれ、祀られてきた信仰の対象であることや、コンクリートやタイルづくりのホコラには、それらが今日的な都市の様相を取り入れながら受け継がれてきたであろう歴史の変遷とともに、タイルという建材の持つ清潔さとホコラの持つ神聖さが無縁ではないだろう事などが想像されます。
本展は特徴的な表現活動を続ける2名の美術家、谷本研と中村裕太が、京都市内で目にするホコラ(路傍祠)の生態系に着目し、それぞれ「タイル」と「ホコラ」をポイントに取り上げながら、地域における「ツーリズム(観光)」の視野などから考察する試みです。
京都市立芸術大学大学院造形構想専攻修了後、アートとその周縁に関わりながら企画活動を行うとともに、観光ペナントの収集研究家として知られる谷本研(たにもと・けん / 1973~)は、独自のフィールドワークにより市内中心部のホコラから三十三所を厳選し、その巡礼ルートを編集するプロセスを通じて、「聖と俗のはざま」に思考を巡らせます。
2011年京都精華大学芸術研究科博士後期課程修了し、〈建築工芸〉という視点からタイル・陶磁器などの理論と制作を行なう中村裕太(なかむら・ゆうた / 1983~)は、街角で見かける内装タイルで装飾された〈タイルホコラ〉に注目し、建築・工芸・民俗の観点からのリサーチをもとに、路傍で採取したタイル片を用いた盆棚を会場内に組み上げます。
会場は市内のホコラマップや三十三所のミニホコラ、タイルによる盆棚、ペナントや法被などの関連グッズで埋め尽くされ、まるでタイルとホコラをめぐる巡礼の観光案内所となります。また、会期中の8月16日・17日には実際に現地を巡る『ホコラ三十三所巡礼ツアー』が、8月23日には京都の地蔵信仰や地蔵盆の歴史をもとに、〈信仰〉の対象をどのように
〈観光〉の視点で展開するのかを取り上げるクロージング・トーク『信仰を観光する』を開催します。
折しも地蔵盆の時期、「タイル」と「ホコラ」という一見関わりの少ないテーマに取り組む本展では、身近な京都の見過ごされがちな小さなスポットに焦点をあてることで、そこから広がる新たな都市空間への視点を提案します。
【会場設営】studio 森森
【主 催】「タイルとホコラとツーリズム」実行委員会
【協 力】Gallery PARC / 東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS) / みずのき美術館 / 一般財団法人たじみ・笠原タイル館