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 Gallery PARC[グランマーブル ギャラリー・パルク]では、様々なクリエイション活動へのサポートの一環として、広く展覧会企画を公募し、審査により採択された3名(組)のプランを実施するコンペティション「Gallery PARC Art Competition 2014」に取り組んでいます。
2013年末から公募を開始し、応募された44のプランから、審査員・平田剛志(京都国立近代美術館研究補佐員)、山本麻友美(京都芸術センタープログラムディレクター)の2名を交えた厳正な審査を経て、3つのプランを採択することとなりました。
 本シリーズ企画展は、採択された薬師川千晴、むらたちひろ、松本絢子・山城優摩・森川穣の3名(組)による展覧会を2014年7月から8月にかけて「Gallery PARC Art Competition 2014」として3連続で開催するもので、本展はその第一弾となります。

 2011年に京都精華大学洋画コースを、2013年に同大学大学院芸術研究科博士前期課程芸術専攻を卒業した薬師川千晴(やくしがわ・ちはる/1989年・滋賀県生まれ)は、在学中よりグループ展などに出品を重ねるなど、これまで一環して絵画制作に取り組んでおり、本展が初個展となります。
 近年では土を絵の具として用い、デカルコマ二ー技法をもとにテンペラで描いた作品を制作する薬師川は、描き上げた絵画を会場に運び込んだ後、画面に向かって矢を射ります。

 絵画を作家の表現とするのではなく、作家が絵画に何を「託す」のか。

 この自問に対して「時間」を託すとする薬師川は、かつて“何か”であったものの集積である「土」を用い、ここに至る“歴史”という時間を画面上に堆積させ、絵画をまるで「時の碑」として存在させます。また、こうして完成した「絵画碑」に、ここからの“生きた”時間を流し続ける為、弓によって矢を立てます。

 Gallery PARC Art Competition 2014 #01となる本展「絵画碑 Obelisk picture:薬師川千晴」展では、この《絵画碑》の大作を中心に展示するとともに、薬師川の絵画への思考を更に展開させた新作を発表します。

ステートメント

 科学の発達により、あらゆる技術が絶え間なく産み出され、かつては生きるための「手段」であった技術が、その姿を変えつつある。技術は、社会のための技術となり、今や技術によって産み出された物質が消費される時代を通り過ぎ、もはや技術によって、人間自身が翻弄され、消費される時代となっている。
 そして、芸術における絵画もまた、同じ運命をたどっている。絵画は文化を担うという芸術本来の姿を見失い、社会に消費される商品となり、今では作家それ自身までもが消費される時代となっているのではないだろうか。

 今、私が危機感を持つのは、その「人間性と技術」ないし「人間性と芸術」の隔たりである。
そもそも人間性とは何か、そして技術の起源とは何なのか、そのすべては「手」の開放にあるのではないだろうか。歩く道具であった「手」が大地から解放され、人間は文字通り生きる為の「手段」を得た。「手」が手となった事で、人は絵(壁画)を描き、器を作り、自ら創り出した〝もの〟に、想い(用途)を託し、本質的な意味で〝創造する〟事を学んだ。そしてこの時、人は動物から人間へと大きな一歩を歩み始めたのだろう。

 つまり、もともと人間性と技術とは切っても切り離せないものなのである。が、今現在それは大きく揺らいできている。しかし、現在でもその人間性と技術が上記のように、密接な関係を持つものがある。それは、お墓(碑)である。お墓は死者を、墓という現存する物質を通して具現化する事で、人はそこに亡き者への想いを託す。過去しか持たない死者を現在へ繋ぎ止める為に、石を積み上げ、花を手向け、手を合わせ、“祈る”。つまり、失ってしまった〝もの〟に対して、それを現世に繋ぎとめる為に、自らの手によって、〝形〟として蘇らせ、そこに新たな命(用途)を宿すのである。
 私は、これこそが今日、絵画が見習う(求める)べき姿ではないだろうかと思う。重要なのは、作家が何を表現するかではなく、作り手が、そこに何を託すかである。

 では、今日、絵画に何を託すべきか。私は、「時間」を託す。
 現代の技術は、主に目的達成の為の時間の短縮化(より正確に、より合理的に)に努めている。しかし、本来の技術は、上記のように、墓にしろ器にしろ、そこに何かを留めたり、溜める為の手段だったのである。だからこそ、私は時間と戦う(無くそうとする)現代において、絵画に時間を託そうと思う。
 その手段として、私は絵画に土を用いる。土は、かつて“何か”であったものの集積であり、この地の歴史の体現者であり、時間(過去)そのものである。土を描画材に用いる事で、私は絵画に直接時間を刻印していく。そうして出来た絵画は、「絵画」というよりも、時の碑のような存在である。だからこそ私は、それを「絵画」ではなく、「絵画碑」と名づける。そして私は、完成という名の一種の結末を迎えた絵画碑に対し、矢を射る。私にとって、矢を射る行為は、絵画碑に内包された時間へ、「描かれたイメージ」とは異なる次元から、〝持続〟する時間を絵画碑に流し続ける為にたどり着いた、ある一つの手段であり、絵画碑と関わる為の〝技術〟である。

 私は、以上のような絵画との関わり方をもってして、現代が手放そうとしている〝あるべき姿の技術〟を人間が見失わないよう、創る行為を通して祈りを捧げようと思う。そして、〝これからの絵画〟に期して、一先ず、ここに先駆の矢を射る。

 

薬師川 千晴

絵画碑 Obelisk picture:薬師川千晴 展示風景

作家略歴

薬師川 千晴|Chiharu Yakushigawa

1989年 滋賀県生まれ
2011年 京都精華大学 芸術学部 造形学科 洋画コース卒業
2013年 京都精華大学 大学院芸術研究科博士前期課程 芸術専攻卒業

展覧会

2013年 科学のあとに詩をかくこと(ギャラリー16/京都)
2012年 主張展(ギャラリーアーティスロング/京都)
懐(常懐荘 旧竹内邸/愛知)
視域(京都精華大学 7-23ギャラリー/京都)
2011年 Leave Color -視覚と知覚-(ギャラリーフロール/京都)
2010年 京展(京都市立美術館/京都)
 
作品画像

《絵画と人間の条件#3》
直径900mm
パネル、土、顔料、練り込みテンペラ、真鍮、羽、他
2013

作品画像

《絵画碑#5》
430×455mm
パネル、土、顔料、練り込みテンペラ
2014

作品画像

《築城#2》
有彩 610×460mm
変形パネル、油絵具
2013

作品画像

《一塊の顔料へ捧げる装飾#5》
直径180mm
石紛粘土、顔料、羽、他
2013

 

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